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玉勝間

立田山小ぐらの峯 いにしへ大和より難波へもいづくへも下るに越(こえ)し、立田山は、今のくらがり峠也といふ説のあるは、その名、万葉九の巻に、小鞍嶺(おぐらのみ子)とあるに通ひ、又かの道ぞ、今の世にむねとこゆる道なれば也、そのうへそのあたりに、小倉寺村といふさへあるなれば、さもあらんとは思はれながら、立田神社と、ほどのいと遠きは、心得ぬことにおぼえしに、ある人の、立田山おぐらのみねは、くらがり越(ごえ)にはあらず、今の立野越なりといひ、又此ごろ師のいせ物がたりの古意のしりに附たる、上田秋成といふ人の考へにも然いひて、そのよしおくはしくわきまへたるはまことにさることヽぞ思はるヽ、