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伊勢物語

むかし男有けり、その男身おえうなき物に思ひなして、京にはあらじ、あづまの方に、すむべき国もとめにとて行けり、〈◯中略〉ゆき〳〵てするがの国にいたりぬ、うつの山にいたりて、わがいらんとする道は、いとくらふほそきに、つたかえではしげり、物心ぼそくすヾろなるめおみる事と思ふに、す行者あひたりかヽる道は、いかでかいまするといふおみれば、見し人也けり、京に其人の御許にとて、文かきてつく、 するがなるうつの山べのうつヽにも夢にも人にあはぬなりけり