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閑田耕筆

位山は、なべての名所集飛騨と記せるお、六帖に、衣手のいろまさりつヽ信濃なる位の山は君がまに〳〵、といふうたあり、契冲あざりの吐懐篇に、此歌によれば、飛騨にあらざること明けし、もしは伊勢物がたりの、かふちの国いこまお見ればといへるも、伊駒は大和勿論なれども、西の方は河内にもかヽれば、かうかけるやうに、信濃ながら飛騨にもわたるにや、さりとも大かたにつかば、猶信濃とぞ申べきと判ぜらる、然るに此ころ飛騨高山加藤氏の書音に、位山当国大野郡宮村にありて、東信濃境まで十二里、南美濃境まで十七里、西美濃境郡上(ぐんじやう)、越前加賀境迄各十二里計、北越中境まで十四里にして、国の中央にある山なり、あるひは信濃とも美濃とも記せる書あるはいかにやといへり、美濃といへる書は、予いまだ見ず、何お証に出せるにや、凡古今属国のたがへる類ひは、右にもいへるごとくなれど、かくのごとく正しく、国の真中にあれば、六帖の歌も、おそらくは都人の聞たがひ成べし、むかしとても聞たがひ有べければ、一首のうたおもて、現在の地理には争がたし、