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壒囊抄

閻浮檀金軟挺(えんぷだんごんなんりやう)なんど雲は、何なる金ぞ、 凡金は、三国に有共、昔は此国には希也、されば聖武天皇東大寺御建立の時、大仏の薄(はく)の為に金お求め給ふに、無かりしかば、和州金峯山は、金の山也と申せばとて、良弁僧正に仰て、蔵王権現に申請させ給ひけるに、夢中に示しての曰、我山の金は、慈尊出現世の時、大地に布ん為なれば、取事不能、近江国志賀郡水海岸の南に一の山あり、大聖垂跡の処也、彼に行て祈可申と、仍僧正彼山お尋給ふ処に、老翁有て鉤お垂けるが、良弁に語て曰、此山之上に一之霊倔あり、八葉之蓮花之如し、紫雲常に聳(たなびき)、瑞光頻輝、是観音利生砌也、我は亦当山の地主、比良の明神也とて、忽に隠給ぬ、