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諸州奇跡談

甲斐国 同国富士山是は古歌にも駿河の不二と詠じ、又世俗にもするがのふじとのみ、心得たるなれども、もと此山は甲州の山なるべし、其故いかんとなれば、甲州上吉田村表口に、三国第一山と勅額かヽり有也、鳥居の高さ四丈三尺也、駿河村山口より大刀三振、青指三貫文お、甲州郡内の御代官陣屋へ年ごとに上納せしと也、これは駿河のふじといわせまじき為にや、其始おしらず、当御代吉宗将軍、彼大刀三振の代りに小刀三本、青指三貫文の代りに、青銅三百文上納すべきむねお命ぜらるヽ、有がたき御仁政なり、又駿河大納言様、富士山の道のりお改めさせられしに、其節も甲州吉田村大鳥居より、山上道法三百五拾七町十七間ありと雲、古来は吉田より参詣のもの多く有しと也、今はすばしり口より参詣多しといふ、よつてこれお表口といふ由、