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袖中抄

ふじのなるさは さぬらくはたまのおばかりこふらくはふじのたかねのなるさはのごと 顕昭雲、ふじのなるさはとは、ふじのやまのみねに、いけのごとくにおほきなるさはあり、その水と火と相劇して、けぶりと水気と相和してたちのぼる、火もえ水のわきかへるおと、つねにたえず、されば鳴沢(なるさは)とは申と雲々、〈◯中略〉 童蒙抄雲、なるさはとは、ふじのやまのうへにあり、つねにながれておとたえせぬなり、さぬらくはとは、すこしぬることはたまのおばかりにて、こふることはさはのごとくにたえずとよめるなり、〈◯中略〉 古老伝雲、山に神ます、浅間(あさま)の大神となづく、いたヾきの上に、平地一里許、中央の外にして、体こしきおかしくがごとし、こしきのそこに神池あり、池のなかに大石あり、石体あやしくてうずくまれるとらのごとし、そのこしきのなかに、つねに気あり、その色純青也、そこおみれば湯のごとくにわきあがる、とおくしてのぞめば常に煙火のごとし、宿雪はるなつきえず、山のこしよりしも腹(ふところ)のもとにとヾまり達することえず、白沙のながれくだる故也、広言がなるさの義は、このながれくだる白沙の心歟、ふじのなるさはといふべからず、