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古史伝
三十一神代
福慈岳は即富士山なり、〈◯中略〉さて古く此山の奇霊なる由お称たるは、万葉三巻、山部赤人望不尽山歌に、天地の分し時ゆ、神佐備て高く貴き、駿河なる布士の高嶺お、天原振放見れば、度日の陰も隠ろひ、照月の光も見えず、白雲も伊去はヾかり、時自久ぞ、雪は落ける、語つぎ、言継ゆかむ、不尽の高嶺は、〈◯中略〉此山お詠る歌、是らより古きは有事なし、然れど天地の分し時ゆ、神さびてと雲る如く、神世より立たる事は雲も更なり、〈和漢合運図など、旧き年代記の類、又林道春の神社考に引る、富士縁起などに、孝安天皇九十二年六月、富士山涌出と雲、或は孝霊天皇の五年に、近江国に水海湛、駿河国に富士涌出と雲る説も有ど、旧き俗説にて取に足ず、〉