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万葉集抄

駿河の国には富士山葦高山とて、高き山ふたつあり、ふじのやまは、いたヾきには葉(えう)の嶺あり、浅間大菩薩と申神まします、本地胎蔵界大日也、葦高山は五の嶺あり、葦高大明神と申御神まします、本地金剛界の大日也、この富士葦高両山の間、昔は東海道の駅路也けり、さてその中によこばしりの関なんど雲所も有ける也、あしがら清見がよこばしりなんど雲ことの侍るは是也、横ばしりの関は、富士あしたかのあはひ也、さて此みちおむかしの旅人とおりける間重服触穢のものども、朝夕とおりけるお、あしがらの明神いとはせ給ひて、今のうきしまがはらと雲は、南海の中に浪にゆられてありけるお、うちよせさせ給ひてけり、さて其後今の道はいできにけりとなむ申つたへて侍べる也、然ればうちよする駿河の国といへるは、この本縁にもや侍べるらん、