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廻国雑記
翌日〈◯天明十八年九月二十四日〉筑波山に参詣し侍りけるに、初雪ふりて紅葉ばうす紅に見えければ、何れおか深し浅しとながめましもみぢの山のけさの初雪、神前にて詠じ奉りける、 さはりなくけふこそこヽにつくばねや神の恵のは山繁山、誠にこのもかのもと詠せしもことはりにて、山々の紅葉たとへん方もなく侍り、道すがらくちすさびける歌、 筑波山此面彼面のもみぢ葉に時雨も繁き程ぞしらるヽ、みなの川は、此山の陰に流れ侍り、恋ぞつもりてと詠ぜし歌お思ひいでヽ、筑波ねのもみぢうつろふみなの川淵より深き秋の色かな