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木曾路名所図会

御岳(みたけ)は、信濃一州の大山なり、西野、黒沢、未川(せいかは)、王滝等其麓に有、黒沢より独奉祀す、毎年六月十二日十三日、諸人潔斎して登る、全く富士山に登るが如し、絶頂に小祠あり、且三つの池ありて、其側巨巌矗々たり、四季に雪あり、霊境といふべし、山に登るに、四里にして堂あり、夜中炬お照して峯に至る、祠あり、金剛童子といふ、こヽに憩ひて天明お待、此辺五粒松多し、枝お垂て虬竜の如し、これお名づけて御松といふ、盛夏といへども山間に積雪あり、草木生ぜず、又三里登れば絶頂に至、二祠あり、一お王権現といひ、一お日権現といふ、其西北の峯に三祠あり、一お倶利迦羅といひ、一お八王子といひ、一お土祖権現といふ、其東の峯に三池あり、一つの池は水涸てなし、一つの池は水少し、一つの池は水満て西野に流る、其北お地獄谷といふ、硫黄多く、渓川ありて王滝にいたる、濁川といふ、是硫黄の気にして、其水甚だ嗅気あり、又山上に鳥あり、形鳧の如し、毛色雌雉のごとし、人お見ても驚ず、山上に一草お生ず、葉蘼蕪に似たり、小花咲く、状菫菜のごとし、色紅紫なり、名づけて駒草といふ、又一草あり、蓼に似て大なり、葉軟にして、里人採て喰ふ、これお御蓼といふ、