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甲斐叢記
七大門嶺口
八岳(やつがたけ) 又谷鹿岳(やつがたけ)と作(か)く、長沢西井出谷戸(やと)小荒間、上笹尾、小淵沢等の諸村の北に峙立て、檜峯、〈権現岳とも雲〉小岳、三頭岳、赤岳、箕蒙(みかぶり)岳、毛無岳、風三郎岳、編笠山等、八稜に分るヽゆえに此名あり、檜峯には石長姫、八雷神お配祀り、八岳権現といふ、〈西井出村に八岳神社と雲あり、建御名方命お祀る、〉三代実録に載たる檜峯神社なりといへり麓の諸村より三里余、秋分の頃までは、参拝ことお禁む、岳の中腹に前宮あり、〈此処までは平日に参詣者多し、祭日は三月十一日なり、〉其山足北に延て、信州蓼科山、大門嶺等に接けり、山の東面は佐久郡、西面は諏訪郡なり、其峯々は岝崿(するど)くして、肖漢お衝が如し、俚俗の諺に、此山の高さは富士山と僅に馬の沓の丈程の差なりと雲ふ、これ其霊秀高大なる事推して知べし、良材、黄連、石耳、磁石等お産す、又泉源数多ありて、其利お受る地多し、