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諸国里人談

妙義 上野国妙義山は、岩山にて、岑々鋭に尖て岩々とし、鉾お立たるごとく、樹木なく、たヾ絵にある唐の山に似たり、東の方厩橋総社の辺より此山お見れば、峯ちかき所に真丸なる穴あり、月輪お見るごとし、あなたの雲所たヾしく見ゆなり、土人の雲く、百合若大臣の射抜たる箭の跡なりと雲り、山の麓安中松井田より見れば、此穴なし、是は巌と〳〵の行合にて、ふりによつて山穴のやうに見ゆるなり、或雲、人のうへに自といふ事は、水柄といふ事にて、かく峠たる嶮山の滴にて育つ人は、其心極て嶮なり、又京奈良などの、寛なる山の水にて、養れたる人の心は柔和なり、江戸大坂などの壙野大河の流お飲人心は、至て広しといふは、その理なきにしもあらず、