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木曾路名所図会

白雲山高顕院〈俗に妙義山と号す、松井田より入る、又横川よりの道あり、門前に旅舎多し、〉 それ当山は、波古曾神社、往古よりの地主神なり、延喜帝の御宇、延暦寺第十三の座主法性坊尊意僧正、此御弟子菅丞相ゆくりなき、左遷給ふおうき事におもひ、台岳お退き、此妙義山に閑居し給ふ、抑此御山は、青岩峭壁として、山静に幽人偏に愛すべき霊岳なり、遷化の後、こヽに妙義権現と崇め、貴賤の尊信怠る事なし、特に今より百五十年前、奇特ありて、それより宮舎殿閣壮麗に再興ありて、日夜詣人絶る事なし、本坊お石塔院と称して、天台宗東叡山に属す、例祭九月九日山中に大杉七本あり、何れも四尋五尋まはり有、奥院は、本社より二十五町あり、岩角おつたひ登れば大日尊お安ず、門前の旅舎は、弐町許軒おならべて、山岸に書院お調ひ、詣ずる人の宿りとす、春の頃は一家に百余人も泊りて賑はひいはん方なし、霊験ありとて、関東の人民はなはだ尊敬渇仰なす、故に常にも詣人多し、まづ当国の霊地にして、此山のすがた、世に類ひなき奇異の分野なれば、神霊ある事むべ也、かヽる名山に、かならず霊あり、故に祈ればしるしありとぞしられける、