[p.0827][p.0828]
廻国雑記
日光山にのぼりてよめる、又昔は二荒山といふ(○○○○○○○○)となん、 雲霧もおよばで高き山のはにわきて照そふ日の光かな、此山にや、山菅の橋とて深秘の子細ある橋侍り、委くは縁起にみえ侍る、又顕露に記し侍るべき事にあらず、 法の水みなかみふかく尋ずばかけてもしらじ山すげの橋、滝の尾と申侍るは、無双の霊神にてまし〳〵ける、飛滝の姿、目お驚かし侍りき、 世々おへて結ぶ契の末なれや此滝の尾の滝のしら糸、此山の上三十里に、中禅寺とて権現ましましける、登山して通夜し侍り、今宵はことに十三夜にて、月もいづくより勝れ侍りき、渺漫たる湖水侍り、歌の浜といへる所に、紅葉色お争ひて月に映じ侍れば、舟に乗りて、 敷島の歌の浜辺に舟よせて紅葉おかざし月おみる哉、翌日中禅寺お立出ける道に、数散しける紅葉の、朝霜のひまに見えければ、先達しける衆徒、長門の竪者といへる者に、いひきかせ侍りける、 山深き谷の朝霜ふみ分てわがそめ出す下もみぢかな、かくしつヽ下山し侍りけるに、黒髪山の麓お過侍るとて、われ人いひすてどもし侍けるに、 ふりにける身おこそよそに厭ふとも黒髪山も雪おまつ覧、同じ山の麓にて、迎ひとて馬どもの有けるお見て、 日数へてのる駒の毛もかはる也黒かみ山の岩のかげ道