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東国旅行談

岩木山(いわきやま) 奥州津軽弘前の御城下より、五里西の方に見ゆる高山なり、四季ともに雪とけず、眺ある山なれば、詩歌連誹の遊人、これお賞美して津軽富士といふ、風景おもとめて、野辺に遊観する人おほし、されども常には此山に登る事お許さず、八月朔日にのみ、山にのぼる事お許す、何人か読ける歌に、 富士見ても富士とやいはん陸奥の岩木の山の雪の曙 此うたは余ほど古き歌なるにや、国中にて賤き者までもよくおぼへて、我等が如き旅人に物がたるゆへ、こヽに書しるしぬ、