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東遊雑記

鳥海山は世にしる大山、酒田より見れば卯辰に見〈え〉、青塚よりは巳寅に見へ、山の風俗異なり、酒田より麓まで三里、夫より頂まで九里、下向道は五里、土人の雲、嶮しき道、寛かなる道幾筋もありて、行程一定ならず、山上に鳥海権現の社あり、二間三間、外に柴堂弐け所、参詣の人の休所とす、別当竜頭寺といふ、山伏三十家、山の谷々お開て田畑として、各々作り取にして食地とせり、此山は峯いくつともなく折重りて、山中に小なる湖多し、鳥海の湖、鶴巻の湖は大ひ也、遠見せる風景、和国の山と見へず、数十里の外より見ても、其雅なる所いわん方なし、予が思ふ所、当山は富士山につぐ名山なるべし、諸州高山多しといへども度々参詣せしものに尋ね聞て、山上の事お記せり、昔酒田浦に算者ありて、山の高さお積り、鳥海山の高さ拾七丁五拾八間五尺壱寸弐分、月山の高さ拾四丁五拾六間余、是は御案内のものより御巡見使へ申上る所なり、壱寸弐分迄お知事及びがたし、予こんぱつお以て計るに、是も齟齬せり、