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閑田耕筆

大江山二所あり、山城丹波の界、樫原(かたぎはら)の西に、俗老の坂と称ふるもの、大江山の坂お誤る也、和名抄乙訓郡大江とあり、慈鎮和尚の御歌にも、大江山かたぶく月の影さえて鳥羽田の西に落る雁がね、とあるは是也、此山つヾき小塩良峯〈今作善峯〉と、南へかけて都の西に屏風お引たるごとし、又丹波丹後の界なるものは、酒呑童子といふ賊の籠りし所にて、今千丈が岳といふ、大江山いくのヽ道の遠ければ、と小式部内侍のよみしは、其母和泉式部、保昌朝臣にたぐひて、丹後に有しほどなれば、そなたなること知べし、