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年中行事大成

六月一日 石垂山前神寺参 伊予国新居郡にあり四国遍路の札所にして、麓より十二里、常に山上お許さず、詣人は里前神に札お納む、今日より三日の間登山お許す、 石槌山は、四国の一高山にして、嶮難いふばかりなし、登山の者は三十日の間精進おなす、麓より二里半余登れば、其上に壁お立たる如き岩あり、其岩の頂より、十五間ばかりの鉄鎖お下せり、諸人其鎖に取付、手繰にして登る所弐け所、又其上へに二十間ばかりの鎖お下げ、壁立したる巌に登、あやまつて手お放てば、忽ち千仞の谷に陥つ、其危き事言語に絶たり、登山の行人此所までは競ひ登るといへども、此鎖に至て心億し、間登得ざる者あり、然る時は先達其者お呵責して、罪障懺悔なさしめ、精信にして登るときは、恙なしといふ、絶頂才に坦なる岩頭に、蔵王権現の小祠あり、此所より四辺お望むに、懸崖幾千丈なるお量べからず、澗底朦朧として雲霧遮り、常に烈風あつて巓頭お衝故に、健実の者といへども、岩頭に立事能ず、匍匐して社前に至り、拝し卒て復鎖に縋り下山す、