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輶軒小録
山火之事 山の焼くること、日本には処々にあり、富士山古へは常に焼け出づと雲へり、富士の烟も、今は焼けずと、何の比よりか焼け止まりしことお知らず、浅間の岳は今も焼くるなり、此外肥後の阿蘇、薩摩のうんせんも、今に焼くるなり、中国にては聞くことなし、大明一統志お見るに、西北夷に火州と雲ふ処、南北朝の比より唐までは、高昌国と雲ふ地なり、其国に火焰山と雲ふ山あり、山中常に烟気ありて涌き上り、雲霧なし、夕に至りて、光烟炬火の如くかヽやき見ゆ、禽鼠皆赤しと雲へり、亦其隣国に白山と雲ふあり、山中常に火烟あり、確砂お産す、此お取る者、木底の鞋お著けて取る、皮なるものは、即焦ぐる、穴有りて、青泥お出だす、外へ出づれば、即砂石となる、隻此二国のみ、山の焼け出づることお記す、是も火州は南于闐に抵り、東南粛州に至ると有り、中国より遥に西北夷狄の地なり、