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怪異弁断
五地異
愚伝聞、世界の中、火山の国甚多し、意大里亜(いたりや)国の内所所多し、其中に羅馬国の火山、昼夜燃て石お百里の外に飛すと雲り、其山に岩洞一百あり、其洞穴各病気お愈す、何れの病は何れの洞、其病は其洞に入て治すと、各功能有り、或は格落蘭得(こららんて)と雲国は、地中火気多し、然れども其火気甚しく焼穿つ事無し、故に人民地上に石お敷て、其上に家屋お造て居舎とす、家内の地に火焰到る処に釜お置て食物お熟す、薪お不用と雲り、日本にも是に似たる事あり、或行脚桑門の雲るは、越後の国に戸沢氏の領地あり、如法寺と雲処なり、民家六軒あり、其の中の一民家に、土産(どざ)の傍に竅あり、其の中より火焰燃出づ、常に磨石の上石お蓋とし置たり、火お出さんと欲する時は、硫黄少し許お、蓋石の穴より捻り入るれば、火焰即燃出づ、今ま其火竅に竈お併て囲置たりと也、先年領主其火所お深く堀せられしかども、土中別に異なる子細無りしとぞ、此等は皆火徳神妙不測之自然也、又琅邪代酔巻三、有蕭丘寒焰雲々、火焰不熱して凉き者也、 弁断 地上火起り燃る事、漢土所々に有之、蜀中に最も多しと雲り、西蕃の国にも火井とて有之、其井中常に燃ると雲り、是皆其土地の常なれば、災異に非ず、日本に於ては、富士、浅間、阿曾、温泉、霧島なり、古へ盛に燃て、今不燃ものあり、古へ不燃の所、今燃るもあり、何も其地下に硫黄有て火お生じ、地上に発して燃る者也、硫黄は土中燥熱の気より生じて、純陽の体なる故に、全く火と同気也、此の故に能火お生ず、此火気上升して雷と成り、或は彗星と成と雲り、又附記す、西戎の国に火池あり、常に燃、其中に鼠居れり、火鼠と号す、其毛甚だ長し此毛お以て布お織、是お火浣布と号す、垢けば則火に入るに、不焼して清白になると雲、異物志博物志等に委し、