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東遊雑記
十九
おそれ山の事は、焼山と記して、和漢三才図会にも歌わせし、不時に焼る故に、もつて焼山と称すとあるは、大虚説也、此山は、青森お出るよりは、日々面白く見る山にて、さしての高山といふにもあらず、浦々にて、此山の焼し事お見しものありやと、案内のものは雲に及ばず、人人に尋ねし事なるに、老人の申伝へにも、恐れ山の焼しといふ事は承り不申、雲霧の常に峯にかかりしも見れば、煙りのごとく見へる事ゆへ、たま〳〵来し旅人の煙と見て、焼るといひし事なるらん、と皆々雲ひし事也、日本僅の国ながらも、其地に至らずして、人の物語お信じて書に顕す故に、大に違ひし事の有と思われ侍る也、