[p.0877][p.0878]
東国旅行談

南部之焼山 奥州南部領八之戸(へ)より程ちかき所に、大畑〈雲〉村より登る山なり、峠までの道法三里半といふ、此山の絶頂は、時として一陽の火おこり、猛火焰々として燃あがり、煙雲お払ふ有さまなるが、又時いたれば、消て常のごとし、因て焼山といふ、山上みな石にして、諸の地獄おかたどれり、三途川あり、賽の河原は、小石おもつて塔おつみかさねたり、修羅道は石の面みな血に染たり、剣の山さながら鎗鉾のごとく尖ておそろしく、其外それ〴〵の地獄いろ〳〵あり、