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廻国雑記
かくて立山に禅定し侍りけるに、先三途川に到りて思ひつヾけける、 此身にて渡るも嬉しみつせ川さりとも後の世には沈まじ、翌日下山のついでに、もろ〳〵の地獄お廻りけるに、熱湯の体、火炎など取々に浅ましかりければ、 しでの山其しな〴〵や湧かへる湯玉に罪の数おみすらん、禅定する〳〵ととけて、下向し侍る道にて、 都おばとおくこしぢにかへる山ありとなぐさむ旅の空哉