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謡曲
山姥〈つれ〉恐しや月もこぶかき山陰より、其さまけしたるかほばせは、其山姥にてましますか、〈して詞〉迚はやほに出初しことの葉の、気色にもしろしめさるべし、我にな恐れ給ひそとよ、〈つれ〉此上は恐ろしながらうば玉の、くらまぎれより顕れ出る、姿詞は人なれ共〈して詞〉髪にはおどろの雪お載き、〈つれ〉眼の光りは星のごとし〈して〉扠面の色は、〈つれ〉さにぬりの、〈して〉軒の瓦の鬼のかたちお、〈つれ〉こよひ始てみる事お、〈して〉何にたとへん、〈つれ〉いにしへの、〈上歌同〉鬼一口の雨の夜に〳〵、かみなりさはぎおそろしき、其よお思ひしら玉か、何ぞととひし人迄も、我身の上に成ぬべき、浮世語りも、恥かしや〳〵、〈◯下略〉 ◯按ずるに、山男、山姥等の事は、動物部獣篇怪獣条お参看すべし、