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地方凡例録

森林之事 付〈◯中略〉木立見立之事〈◯中略〉山林竹木仕立方之事〈◯中略〉 一総て御林お見立るに、峯通りは風強く、木の育方悪敷、延丈け無甲斐、雑木は少く、松多して曲木勝成物也、然共峯通の松は、風雨にもまれて、小木の時より木筋ねぢれて堅く育上る故、梁引物に遣ふて格別に強し、水にも腐遅し、山の中腹は、木立茂るものなり、然て大木は少く木の延はよし、裾通りは別て育よし、大木も有り直成木多し、檜杉の類は湿気水気好故、裾通り谷間等吉、中腹より岸峯には育立悉く悪し、すべて海辺夕風強当る林は、木立不宜、適々大木有ても、節曲木而已なり、又北請之山は、木聳へて育立悪敷、杉檜はよし、猶日請風当等之様子に随ひ、何れ一様には雲ひ難し、〈◯中略〉 一山林竹木仕方、凡木お植る処は、深山幽谷土地厚き処吉、高岡は其次也、松は峯に宜、杉は谷に宜、平地にても杉檜松桐樫等之太り安き木、肥地に植れば、拾箇年之内外にて材木に成、又薪に用雑木は四五け年之内也、四木の類、或栗柿桃梨は実植、又は接木にしても二三年の内に実お結地味お考へて植べし、田家に木お植るは、西北之方に吉し、竹は東北角に植、陽気お包み又盗賊之防ぎ、火難之防、枝葉薪に用、落葉はこやしに成る、傍吉、垣には枸杞五架葉枳穀お植、真木栗枇杷桃之類お植べし、扠又新林仕立方お用木の為ならば、松杉はよし、三四尺づヽ間お置植、次第に茂るとき木振悪敷は伐り、又は植替べし、実生三年目苗木お植るが吉、野地萱原地等其儘植るは育ち遅し、切開て何ぞ一作して、其跡お畝ひて植れば、よく附て早く成木す、養ひは下糞吉したる肥しにて植れば、千万本に一本も枯るヽ事なし、育立に随ひ、追々枝お打薪にすべし、松の枝は本木際より伐、杉は枝お壱寸計残して切、残りたる所お本木之際より皮おむきて置ば、節入に不成、又薪の為の林は檞山楢榎抔取交植べし、小木の内落葉取れば育立遅し、不取ば朽て糞に成、木太り早し、松林は別之木お不交、松許が吉、縦一け年に弐町四方に、毎年植れば、十一け年めには初年の林の内、筋宜く、大木に成べきお見立、少し残し、其外は不残伐払、其跡に又小松お植立れば、薪不絶段々伐払ひ、縦ば三尺に一本づヽ植れば弐町四方に六万本程成、枝一束づヽ落しても六万束也、三分一不用立共大分の薪也、伐残たる筋宜分、外之木伐採、小木に成故、格別盛、木も早く良材に成事也、 一松お植替る事、正月廿日頃より、二月社日前迄吉、諸木共栽替るとき、元生たるごとく、木振枝葉抔東西に目印して堀、元の如く植べし、穴お広く掘、脇根お一通り並、土おかけ少々押付、又根お並べ土おかけ、根の窄まらぬ様に、又東西の不違様に植、大木は鳥居木お立、夫に釣上置、立根お不折よふにすべし、松は下にだる肥入、土お細かに砕き、大麦粒お一抓み入て植れば枯ることなし、夏木は春葉の不出前か、秋葉落て植替べし、冬木は夏葉茂りたる時、四五月比栽替て吉、菓樹は上之十五日に植れば菓多し、始て熟する時、両手にて取べし、重ねて実お能結ぶ、必ず一箇二箇不可取、人取たる後鳥多く取物也、椿は六月十五日より廿日頃まで栽吉、根に牛房の様なる処有、伐て焼て可植、枝お伐ことは悪し、杉は差木よし、是は若生お長七八寸許に切り、先おそぎ付割懸、大麦一粒挟み四月中旬差べし、併し今年芽許りは悪し、去年芽の境際より切たるが吉、皮のまくれざる様に可差、実のなき杉吉、実の生るは生立遅し、檜も差木吉、猶大木に成ては差木は内にうろ出来安し、実生は盛生は遅けれ共、大木に成うろ以来ず、桑は地際の枝折かけ、土に埋め置、春に至りて一本より四五本宛芽お出し、実植よりよく生立物也、竹お植るは五月十五日頃吉、竹お中程より末おとめ植る事古より多し、然れ共関東の地面には、末お留ては枯ること多し、縦つきたりとも、竹の子の生る事遅し、末お切ざれば、能く付て竹の子多く早く茂る、一所より枝弐本付、節の低きは雌竹也筝多く出る、人家に薮なきは用事かけること多し、空地有ば竹お可植、屋敷の西北吉、東北もよし、南には不可植、南お開き、北お閉ば夏すヾしく、冬に暖に、菓樹能実結、万事によろし疫病等お不入と雲、木は六月暗の内に不伐竹は八月、是も暗の内に吉、俗に木六月竹八月と雲ふ性合格別違ふ、伐時悪き竹木共虫入、別て竹は八月暗に不伐ば虫入に成、沿川筋などに葭お植るは、若生壱尺許り、根一節づヽかけて可伐、指て能付なり、総て菜菓草木凡て民用お助る品々種お求め、其法に随ひ作之、不用の地なき様に心掛べし、四壁まばら竹木少く家居みへ透く様成村方は、村役人百姓共心掛薄く見故、自ら貧村とみ得る、若し空地あらば雑木等お植置、用水川除普請等の用木の多足とすべし、又土目悪敷畑地何程も養入ても種丈も不取、或は山里の間遠き処之畑、悪地の上には猪鹿之防届兼、年々荒地に成地所は、杉桃等お植、又は荻畑、萱畑或は楢椚林等、地相応之物お仕立て、年貢軽く可申付、地味お考へ右の類お仕立、山野に無益の費無之様に致すべし、