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地方凡例録

森林之事 付〈◯中略〉根伐仕立之事〈◯中略〉 一御林の儀大山なれば、御山守有之、御扶持方被下、致帯刀も有り、又一と通りの御林にては守無之、其村の庄屋名主相守、これは扶持方等無之、又は居村より格別遠所にて、其御林の辺に百姓家等有之、枝郷同然の処は、名主元より遠方、守も届き兼候故、其枝郷にて頭立たる百姓お御林守(○○○)にして、多分は林下草等お此ものへ取すると有、扠御用木等に伐出有之節は、林守名主に案内為致御林見分致し、御用木之寸尺に合ひたる木品お見立、壱本づヽ削り、極印お打、猶多分の伐出し有之、抜伐に難成程の木数ならば、裾通りより片付て切が吉也、山出しの勝手も宜、左様に山片平も伐ことならば、可伐場処見立、鎌苅苗木等之不宜分苅除、足場お能くして可伐、苅除きたる麁朶、萱等は、束数お改、追て入札お取売払に可致、其伐跡は伐株お掘らせ、苗木可植付、猶も根お取すれば薪に掘取者有もの也、根伐の仕方杣共は功者之有事なれ共、下通りの人足等に伐する時は、役人功者無之ては、大木等難伐、先根伐おして何方へ可倒と、木の倒懸る所お考、峯あらば峯ある方へ返すべし、必谷間の方へ不可返、山出難成、又谷上之木抔伐ては、谷へ可落処は、留木迚、外の木より横木お結び、伐たる木の持れ掛る様にして伐ざれば、大木谷へ落ては上るに、悉人夫多く費る事あり、其木品に寄、根より六七尺残、根伐して、下へ引落せば、立木の儘にて自然と返り、木に損も不附、右伐株は別に伐、御用木に可成は遣ひ、又御用木にも不成ば、御払にいたす、檜椹等は榑木に成、入札直段も宜敷物也、至て大木本口にて差渡し壱尺も可有程之木は、一と通にて根伐難成ければ、焼木と雲にするなり、吉木の根元お五六尺、八角十文字に貫穴の如く彫通し、廻りに柱の如く伐残したる処にて持て居る、其穴へ焼草お入、火おかけ、焼切にすれば、一度に焼落、根の上にそろりと返るゆへ、木に損なし、怪我等の案事もなし、大木お四方より切ては、真に至りて難伐、夫お木の下に行て伐る内に、風吹倒れば大怪我有もの也、根伐したる木、当坐に枝お伐れば、其木は格別重く成物也、これは枝々取可発勢の発すること不能、本木に勢籠る故成べし、根伐おして四五日も置、枝お取れば、格別軽く成、然て不急に材木は伐倒して、四五日にも差置、日柄立て末方、枝葉お伐吉、是山師の秘事なり、且又一山御払等に成か、又は江戸廻御用木等の為に伐出に成、請負人等有之、杣山師共入て、総山の根伐おいたし、川下海上お積廻し等之様成儀有之時は、山之改方、筏組川下の船積等さま〴〵の手段有之、奉行人至て功者入る事也、然共是先大にては無之儀故、仕方長き儀に付略之、勿論御用木とも伐取たる株壱本づヽ極印打伐株と材木員数引合改る事也、