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新野問答
杜 杜字如被示候、森の字之意に用申候、万葉集に社字お森と用ひ候は、左様に読来候、但万葉は上古之物に候故、其訓断絶候て、延喜中知る人なく候か、天暦に至て、源順押て訓お加へ候、爾来古点新点さま〴〵候へども、畢竟は先づ無理読に候、因茲彼集は証拠に成候事も候、又うたがはしき事も候、社字杜の訓に用ひ候は誤にて可有之候、但古今集に、 ねぎごとおさのみきヽけんやしろこそはてはなげきのもりとなるらめ 社の字お杜と訓じ候事もやと、億説ながら申試候、是非如何候半、大略社は木しげき所に候へば、森とも申べきや、韻会に、周礼お引て、二十五家為社、各樹其土所宜之木など候へば、社之字おもりと訓候は、さも有べきやとも存候、杜字お森の字意に訓候は、字書に説無所拠よ、万葉之社の字お誤て、杜の字に古来用ひ候誤も知るべからず、又別に子細も候歟、