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ねざめのすさび

吾妻森 大江戸亀戸天神のうしろお四五町ゆきて、かしこの畑中にあり、この社お、やまとだけのみことの御妻橘姫の霊おまつれりと、物にしるせり、されどうけがたき説なりと、おもひおりしに、この頃、藤原茂睡入道のえらばれし鳥のあとヽいへる歌集およめるに、くだんの森お題にて、鳥がなくあづまの森お見わたせば月に入江の波ぞしらめる、といふ歌ありて、自注に、吾妻森は東人といふ人の、住し所とぞ、本所横堀三目の東にありとしるしたり、東人といへるは、いつの頃の人にか、橘姫なりといへるは、例の附会のせつなるべし、