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閑田耕筆

栗栖野、山城に二所、人皆しれり、契冲阿闍梨和名抄お引て、愛宕郡栗野、久留須、又宇治郡小栗、〈乎久留須〉所の名凡二字なれば、栗野は栖字お略してくるすと、野の字は加へながらよまざる也、たヾし仮付の乃字落たるにや、小栗は小栗栖なるお、これも栖字お略(はぶき)てよみ付たる也、くる須の小野と歌にみゆるは、皆愛宕郡なるおよむ、唯新撰六帖に、光俊、ふる雨にくるすの小野の小鷹狩ぬれしぞ家の始也ける、とよめるは、宇治郡也、〈蒿蹊雲、是は故事によれば也、〉三代実録廿六、又四十二、延喜式第十四、主水司式氷室一所と見えたる、又源氏物語に見えたるも、倶に愛宕郡栗栖野也など勝地一覧に委し、また万葉第六大納言旅人卿さし杉のくるすの小野の萩が花ちらん時にし行てたむけんの歌は、大和忍海郡栗栖と和名に出たる所成べし、然るお世の名所集山城に入たるは誤也、本集にて弁べし、