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奥の細道
那須の黒ばねと雲ふ所に知人あれば、是より野越にかヽりて、直道お行かんとす、遥かに一村お見かけて行くに、雨ふり日暮る、農夫の家に一夜おかりて、明くれば又野中おゆく、そこに野飼の馬あり、草刈おのこになげきよれば、野夫といへどもさすがに情しらぬにはあらず、いかヾすべきや、されども此の野は縦横にわかれて、うひ〳〵しき旅人の道ふみたよらん、あやしう侍れば、此馬の止まる所にて、馬お返し給へとかし侍りぬ、