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塵袋
九飲食
一年始には人ごと餅お賞玩するは何にの心かある、餅は福のものなれば、祝に用ふる歟、昔豊後の国球珠郡にひろき野のある所に、大分郡にすむ人、その野にきたりて、家つくり田つくりてすみけり、ありつきて家とみ、たのしかりけり、酒のみあそびけるに、とりあへず弓おいけるに、まとのなかりけるにや、餅おくヽりて的にしていけるほどに、その餅白鳥になりてとびさりにけり、それより後次第におとろへてまどひうせにけり、あとはむなしき野になりたりけるお、天平年中速見郡にすみける訓邇と雲ける人、さしもよくにぎわひたりし所あせにけるお、あたらしとや思ひけん、又こヽにわたりて、田おつくりたりけるほどに、その苗みなかれうせければ、おどろきおそれて又もつくらず、すてにけりと雲へる事あり、餅は福の源なれば、福神さりにける故におとろへけるにこそ、