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東遊記後編

三本木台(○○○○) 夫南部の地は、広大無辺にして、何れの国といへども、此地の広きに比すべき所なし、誠に七の戸辺に三本木台といふ野原あり、隻平々たる芝原にて、四方目にさはるものなし、此原東西凡二日路、南北半日路程ありと雲、其間に人家もなく、樹木も一本も見えず、実に無益の野原なり、雪中には此辺の人といへども、四方に目印なければ方角知れず、五七日も往来やむ事ありとかや、此外にも、野辺地といふ所より、七の戸迄来るにも、五十丁道四里半ありて、東西は猶広し、此所も隻一面の芝原也、此原は少し高ければ、四方の山々見ゆる、西に八つ幸田山あり、西南には十三四里お隔てヽ三の戸岳見ゆ、東南は二十里許お隔だてヽ八の戸岳みゆ、又遥の南五十里隔てヽ、盛岡の岩鷲山見ゆ、かくのごとく四方豁然として、数百里一望に帰し、広遠なること大海お望が如し、