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有徳院殿御実紀附録
十二
享保十四年の頃、向井将監貞員奉りて、伊豆国大島より、やつかひ四郎五郎同万五郎などいへる馬乗四人、その地に産せし馬四匹お進らせしに、彼四郎、五郎、万五郎などいへるもの、頗る騎法に熟せしかば、土岐大学頭朝澄、松下伊賀守当恒、御旨おうけて、彼等お引つれ、小金の牧にいたり、駒おとらしめしに、馬にのりながら、むらがる駒のまん中に入、捕んとおもふ駒およく見定めのりよせておのが馬よりかの駒の背に乗うつり、平首ねぢておしたふしとるありさま、目お驚かすはやわざなりしとぞ、後江戸に帰りしに、吹上の御庭にめして彼の者ども御覧ありしに、頂の上に永くおひたる毛お、女の髪のごとくむすび、身は鶉衣に股引おつけしさま、わが国の人とも見えず、されど言語は伊豆の国人にたがはざりしとなむ、