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古事記伝

天之真名井、書紀一書に、天渟名井ともあるお合せて思ふに、真渟名井お約たる〈奴那お切て那となる〉名にて、真は美称、〈真水お雲など雲る説は、例のいとうるさし、〉渟は凡て水の湛たる所お雲、〈沼も同じ〉名は借字にて之なり、〈之お那と雲る例多し〉されば此はたヾ井お美て雲る称にて、一つの井の名には非ず、故れ書紀に掘天真名井三処とも有ぞかし、又此井は即安河瀬の中にて、井と雲べき所お指て雲るにて、別に尋常雲井ありしには非ず、〈書紀に、此井お雲る伝には河お雲はず、河お雲る伝には此井お雲ざるも此故にや、〉始に中置天安河と雲おきて、今此に如此言は別に非ること明けし、凡て古は泉にまれ、川にまれ、用る水に汲処お井と雲り、さて丹後国丹波郡比沼麻奈為神社、出雲国意宇郡真名井神社あり、官帳に見ゆ、