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袖中抄

つヽいつの井づヽ つヽ井つのいづヽにかけしまろがたけすぎにけらしも君見ざるまに 顕昭雲、つヽ井つの井づヽとは、よのつねの本如此、しかるに或証本お見給しかば、つヽいづヽ井づヽとなんかきて侍し、それこそ謂たれ、井づヽといはん料に、つヽ井づヽとおける也つヽ井つのといへるは心得られず、此故に、登蓮法師はつヽいつのとあるべきお、つ文字の文字相似る故に書違たる也、 あしべおさしてたづなきわたると雲、赤人歌おも、あしつおさしてなど、心得ぬ女などは読事あり、それも相似たる文字なれば書違たる也、其義いはれず、つヽ井の辺のいづヽと雲べからず、又或人は、つヽいつと雲事に、つもじおひとつ書そへたり、つと雲文字おば、やすめ詞也、かみつ、なかつ、しもつ、おきつなど雲がごとし、さてつヽ井つと雲に、文字のたらねば、つヽいつのと、文字おくはへたる也と雲人侍り、それも心得侍らず、あまりに意まかせなる義也、 又或抄物雲、まろがたけとは、水汲桶也と雲へり、かみおかたにかくるは、かた〳〵と雲也、されば皮桶によせて、かみおかたけと雲也、此義心得られず、井づヽにかけしまろがたけと雲也、桶おまろがたけといはヾ、又かみおかたにかくるお、かたげとのぶべからず、よしなし〳〵、