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塵塚談

掘貫井戸(○○○○)の事、先年よりこれ有しが、武家には更になし、金子弐百両ほどもかヽる事故、大商ならでは掘ざりしにより、彼所に一つ、援に一つ有て、やう〳〵尋るほどに有りしが、二三十年以前、大坂より井夫(いどほり)来り、あおりとかいふ奇器お以て、無造作に掘る事お覚へしより、価も至て下直なり、我等しれる極楽水とうふや井戸かわ共、三両弐分にて出来しよし、其向にみつまたといふ湯屋は、最早く掘抜せしによりて、弐拾両程かヽりしよし、夫故にや近辺第一の井戸となれり、近頃は江戸中掘抜井多くなり、一町の内に三四け所もこれあり、室鳩巣翁江戸に水道の諸所へかヽりければ、已後火災多からんと患ふ、掘抜井の多くなりしも、水道に同じかるべきにや、