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今昔物語
十一
智証大師初門徒立三井寺語第廿八 今昔、智証大師比叡の山の伝として、千光院と雲ふ所になむ住給ひける、〈◯中略〉我が門徒お別に立てむと思ふ心有て、我が門徒の仏法お可伝置き所か有ると、所々に求め行き給ふに、近江の国志賀の昔し大伴の皇子の起たりける寺有り、〈◯中略〉寺の辺に僧房有、寺の下に石筒お立たる一の井あり、一人の僧出来れり、此の寺の住僧也と名乗て、大師に告て雲く、是の井は一也と雲へども、名は三井と雲ふ、大師其故お問ふ、僧答て雲く、是は三代の天皇生れ給へる産湯水お此の井に汲みたれば、三井とは申す也と、〈◯下略〉