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日本歌謡類聚

温泉揃 夫れ国々に出湯多しと申せども、まづ四国には伊予の湯の、湯桁の数は左八つ、右は九つ中は十六ありとかや、扠五畿内に至つては、又とならびも夏野ゆく、男鹿の角の津の国に、きどく有馬の一二の湯、よし足引の大和には、入れば病もはや愈えて、家路に急ぐ十津川や、人の心はあさもよひ、紀の関守がたづかゆみ、いるさの月の影清く、湧く泉おや熊野の湯、因幡に外山、美作に湯原、但馬にきのざきや、伊豆には伊東熱海の湯、相模に湯本塔の沢、木賀宮の下堂が島、そこくら、葦の湯、下野には日光山、中禅寺、塩原那須の湯、信濃には、上の諏訪下の諏訪、越後に湯沢、おほちぶち、加賀にはおくそ山中や、出羽にはあつみてんねいじ、又はじげんじ、かみの山、奥州にいヽでさんあおね、たまざき田中の湯、扠東国にとつては、そもげにたま〳〵に玉鉾の、道ゆく人も結びおく、言の葉しげき草津の湯、まんざすがはにかわらはた、大師の加治のかわばの湯、其外諸国七道に、温泉はてしも侍らはず、何れも寒熱相まじへ、ほしやとり〴〵に備はりて、皆それ〳〵の苦悩あり、中にも此伊香保の湯は、体お養ひせいきお増し、諸病お治する奇妙さは、神仙に異ならずと、詞の花の色深く、しなたおやかに語りしは、鄙に似合ぬ優しやとて、大将御感浅からず、上中下に至るまで、数盃お傾け給ひけり、