[p.1052]
丙辰紀行
走湯山 走湯山は、伊豆の山の事にて侍る、援にまします神おば走湯権現とぞ申しける、昔鎌倉右大将、伊豆箱根お信じ、常に蘋蘩の礼おいたし給ふ、二所参詣といへるは是なり、此ところに出湯あり、石はしる爆の如し、走湯の名も温湯によりての故にや、又一里許西に温泉あり、その所お熱海と名づく、人のよろづの病あるもの浴すればたヾ験あり、先年余も人にさそはれて湯に入り侍りし、其湧く所お見るに、潮の進退によりて、岩の間より烟むしあがりて、人の近づくべくもあらぬほどあつきに、熱湯わき出て流れ走るお、筧おかけて家々にとり、槽に湛えて人々に入らせけり、絶境霊従宣古今、尋名吾輩亦登臨、走湯権現救人処、便是驪山神女心、