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熱海温泉図彙
熱海七湯〈大湯の外、時お期してわくものなし、湯の味もおの〳〵異なり、〉 野中の湯(○○○○)、上の町より一町余北のかた山の麓にあり、そのほとりの土丹のごとし、里人此土おもつて壁おぬる、又砂中に礫ありて金色あり、此湯わく事浅し、ゆえに湯升おもうけず、 清左衛門湯(○○○○○)下の町の北にあり、里説に雲、むかし馬走清左衛門と雲もの、馬おはせて此湯壺に堕て死せり、今において湯壺にむかひ、清左衛門ぬるしと叫ば、声にしたがつて沸いづる、大に叫ば大にわき、小しくよべば小にわくといふ、唐土寿州の咄泉の類なるべし、 平左衛門湯(○○○○○)、法斎湯ともいふ、上町の北にあり、人その名お呼ば声に応じて沸事、清左衛門湯に同じ、唐土茅山の泉、手お打ばわき、又岳陽の泉、人の声お聞て沸き、西寧の泉、人の足音に応じてわくの類、和漢同日の談なると、前にもものしり人いへりと、里人がものがたりぬ、 水湯(○○)、本町の北、坂町のほとりにあり、此湯にかぎりて鹹気なく、水お沸したるごとくなるゆえに水湯といふ、水湯の源より南の方五尺ばかりへだてたる所に湯の湧所あり、此湯は鹹気あり、地中の泉脈はかりしるべからず、 風呂の湯(○○○○)、水湯の西在家の〈高砂や大介〉庭中にあり、そのかたはら三尺ほど東の方の石の間より、細流の湯お湧いだす、此湯塩気さらになし、しほけあるゆとしほけなき湯と相隣る事僅に三尺おさらず、もろこし江乗県の泉、其績塘の湖水、半は冷に半は熱しといふも、此湯に比すれば奇とするにたらず、 左次郎の湯(○○○○○)、医王寺の門前にあり、左次郎と雲ものヽ庭中にあるゆえに名づく、 河原の湯(○○○○)、下町の東、浜のほとりにあり、