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東海道名所図会

箱根温泉、七け所にあり、七湯巡といふ、箱根権現坂お通て、街道に標石あり、これより左の方へ入、〈◯中略〉 蘆之湯(○○○)、七湯の其一箇也、権現坂よりこれまで一里、浴屋は町の中にあり、一二三と仕切て入湯す、気味澀く苦し、又硫黄の香強し、流れ湯みな黄色なり、功能は、癩病、黴病、五痔、一切の腫物に相応して早く治す、浴屋の前両側に、一町許入湯の宿舎ありて、奇麗なり、 小地獄(○○○)、蘆の湯より八町許にあり、山腹に湯気盛んに立て、手お入るればはなはだ熱し、按ずるに、積陰懲聚りて火気お生じ、土精熱して硫黄となる、これ温泉の源なり土人雲、鍛冶屋の地獄、酒屋の地獄、紺屋の地獄ありといふ、地気少しづヽ色変る也、又これより山奥五里許に、大に地気立昇る所ありとぞ、里諺にこれお大地獄とよぶ、気賀湯(○○○)、蘆の湯よりこれまで一里なり、此間に明礬お制する所あり、気賀の中に、岩湯、上湯、平の湯、大滝等の四け所あり、いづれも気味鹹して明礬の香あり、中風疝気お治す、 底倉湯(○○○)、気賀より半里、中むかし地震ふて、名物石風炉も絶て、今才に内湯二三け所あり、此所の民家、箱根名物挽物細工お業とす、 宮下湯(○○○)、底倉湯より二町ばかりにて、大略家続き也、内湯、滝湯あり、内湯とは、温泉の水脈より、樋にて家々にとり入湯す、滝湯とは、樋より筧にとりて、家の内にて滝のごとく温泉お落し、これに打るヽ也、頭痛、痃癖、腰の痛お治す、打るヽに気味快きものなり、 堂島湯(○○○)、宮の下より五町ばかり山下なり、内湯、滝湯あり、気味鹹はゆくして、積聚疼痛お治すなり、塔之沢湯(○○○○)、堂が島より一里半あり、七湯の中にて、地境広くして風景の勝地なり、山お勝麗山と号し川お早渓といふ、〈いさよひに記〉あづま路の湯坂おこえて見わたせばしほ木流るヽ早川の水、 橋お玉緒橋といふ、水戸黄門光国卿、明人俊水と共にこヽに消遥し給ひ、此号おはじめて呼せらる、浴舎美麗にして広く、書院、数寄屋、庭中何れも佳景なり、江府より諸侯時々こヽに湯治し給ふ、元湯お秋山弥五兵衛、一之湯お小川沢右衛門、内湯は田村久兵衛、藤屋喜八、喜平治、小兵衛等なり、都て家数廿三軒あり、此温泉は気味軽くして養生湯なり、諸病お治す、 湯本湯(○○○)、塔沢よりこヽまで十町あり、町の中に浴屋ありて、四間に仕切る、内湯も二三け所あり、腫物、瘡毒、黴病の類によし、これより三枚橋へ五町許あり、阻お歩て橋の東爪へ出る、これより本道東海道なり、