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日光山志

湯湖 是は湯元にあり、広さ凡そ拾四五町に二十町許、 中禅寺温泉 八湯、中禅寺別所より西北に当り、赤沼原お径、湯元迄三里、日光神橋より六里なり、春も風雪寒威はげしく、三月末迄も余寒あるゆえ、四月八日お初として登山し、各湯室お開き初むれども、白根岳はまだ残雪多く、五月末より六月に至らざれば浴するものも少し、九月には前山に雪降ゆえ、九月八日お終として湯室おとじて麓へ下る、日光町方のもの持とす、湯室お開き、日々日光町より米穀園蔬お初め、其余の諸品お脊負ひ送れり、 河原湯〈甚熱なり、湖水湛る時は熱し、乾く時はぬるし、〉 薬師湯〈第一眼病によし〉 姥湯〈黒苦味(こくくみ)〉 滝湯〈甚冷なり〉 中湯〈熱なり〉 笹湯〈寒暑の湿おはらふ〉 御所湯〈第一金瘡に妙なり〉 荒湯〈熱湯なり〉 自在湯〈平清なり、洪水の時、遣ひ水不自由なる時、此湯にて飯お炊きても匂ひなし、〉 湯平 温泉の浴室九軒あり、毎年始と終とすることは前に記せり、此温泉お開避せし年代しらず、九軒の屋作り、各間広に構へたり、地形は大抵平坦にして三四町程も有べけれど、東寄の山際よりの温液生ずるゆえ、皆東の山寄に連住せり、西北の方に平坦続けども、少しく低く、古は援等も一面の湯湖にて有し事ならん、今も蒹葭のみ生ひ茂れり、扠此所より上州沼田領への間道あり、