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東国旅行談

上之山之温泉 同国〈◯出羽〉上の山宿の温泉は、後の御城山より涌いづるといふ、此所のはたごやの中村喜兵衛といふ内に湯治場と名づけて、石にて築たて、三間に弐間ばかりの湯溜あり、猶座敷奇麗にしてよき宿なり、諸病よきとて、湯に入る人多くあり、旅人は昼はたご銭お出し、滞留して湯治するも見ゆ、また表のかたに屋根おしつらひ、五間に弐間余の湯ぶねありて、往来の人の勝手次第に入湯して行と見へたり、此宿の入口は、坂にて家作いづれもかけ造にして、茶屋五七軒もあり、風景よき所なり、東の方はるかに大山みゆる、