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十寸穂の薄
四牟婁郡
温泉 湯崎温泉の名 鉱(まぶ)の湯 浜の湯 元の湯 屋形の湯 崎の湯 粟の湯 目洗の湯 本宮温泉の名 湯の峯 旧(もと)の湯 上の湯 河の湯 湯崎湯治記に曰、入湯の度数七日お一回りとす、湯治の初日、惟一度浴すべし、次の日二度浴、第三の日は三度浴す、四日目は昼二浴夜二浴、合せて四度入湯而止、第五日目よりは一浴お減、昼二度夜一度、三浴して可なり、六日目は昼一度浴し夜一度浴、両度而止、終の七日目は初日の如し、唯一度浴、是此入湯一回りとする也、蓋一回の内、度数の増減如此ならざれば、湯治の験なきのみならず、大に其人に害あり、可慎、凡此度お過すときは病にあたり、却て養生の妨おなす、湯治の日数は、幾回すとも宜かるべし、但此説は湯崎浦の村老の示お述のみ、他方の温泉湯治の心得は、各又別に口授有べし、 房子湯崎道の記に、鉱(まぶ)の湯はあつくして、内お発して病お愈す、積(しやく)つかへ、鬱熱の病によし、崎の湯も大方是に同じ湯あつし少しはげし、冷一切痔疾腰下の病おなおす、浜の湯は和らげ、諸病にきく、幾度入てものぼせる事なし、屋形の湯は積おなおし柢(きづ)おいやす、金瘡に殊によろし、愈すことの早おもて、終の湯といひならわす、初のほどはさしひかへてよしといふ、元の湯はぬるけれども、是お湯崎の根元とす、大病人ゆる〳〵入て養生すれば、諸病まつたふ愈ざるはなし、別して瘇物に宜しきゆへ、瘡の湯といふめり、粟の湯はのぼせに吉、足おひたせば上気の病すべてなおる、六ところ湯の外は、眼病お治する湯あり、遠はなれたる荒磯の岩間より細く流れ出る、眼お洗へばはつきりとせし、熱目なぞは極めてよし、さるは女のさしいでたる、かヽるあやしのすヾろごといわずともと思へ共、所の翁の物語おきヽ、湯の功能お世に示さばやと、ゆく〳〵湯治の人のために、筆のすさみに書とヾめ侍る、