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西遊雑記

水股より湯の浦へ三里、此間に綱木太郎と称せる坂有、上下二里、嶮しき事いふ計なし、肥後の片言にて、坂の名お太郎と雲て坂とはいはず、此辺は肥後にても風土の能所にて、民家のもやう薩州より勝れたり、湯の浦少しき在町にて、温泉あり、旅人入湯せるに誰とがむる者もなく、明はなしの温泉なり、湯はあしからず、功ある温泉の由、然れども辺鄙の地故に、他方より入湯に来る人さらになし、よく〳〵聞ば、是より山分に入りて、援にもかしこにも湯涌地数か所有といふ、