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有徳院殿御実紀附録

養仙院のかたの執事、宿谷源左衛門尹行、もと鳥見よりのぼり、口さかしき者にて、時めく人々に媚へつらひ、その心にかなひしかば、世のひともひそかに眉おひそめけり、これよりさき、病に托しいづこのか温泉に赴くとて、そが子縫殿富房お招き、我こたび湯治に赴くなり、たよりよくば京大坂おもみんと思ふといへども、この事もれ聞えなば、我身のみならず、女までも越度たるべし、かなあしこ、人にないひそ、たヾ女が心得にあらかじめ告しらするなりといふ、縫殿もとこうの詞もなかりけるが、それより源左衛門こヽかしこ思ふまヽに消遥し、帰りてのちは少しもつヽまず、令お犯して珍らしき所々みもし、また一興なりなど、はヾかる所なく人にもかたりのヽしりしかば、聞ものおどろきてさヽやきあへり、その後も酒にふけり、宿直の夜も酔に乗じて局々の女房などにたはぶれ、あるは刃おあらはして追ちらしなどして興じしかば、みな人悪みうとみけり、