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有馬山温泉記
入湯の法 凡此湯に入に、彼地の法義あり、湯文(○○)といふ物にしるせり、湯に入には食後よし、うえて空腹に入事おいむ、一時にひさしく入おいむ、又しげく入事おいむ、つよき病人は一日一夜に三度、よはき病人は一二度およしとす、三度は入べからず、つよき人も、湯の内にひたりて身おあたヽめ過すべからず、はたにこしかけて、先足おひたし、次にひしやくにて湯おくみて、頭よりかたにかけてよし、湯の内に入ひたるべからず、久しくゆおあぶれば、身あたヽまりすぎ、表気ひうけ汗いで、元気もれて大にどくとなる、かろく入べし、汗出る事甚あしく、凡湯人の間、猶身おつヽしむべし、ゆあがりに風にあたるべからず、入湯の間、上戸も酒多くのむべからず、気めぐり、食すヽむとも大食すべからず、酒にえひて入べからず、湯よりあがりて則酒おのむべからず、味からき物多く食ふべからず、熱性のもの、寒冷の物食ふべからず、性かろきうお鳥少づつ食ふべし、色欲おおかす事はなはだいむ、湯よりあがりて後も二七日いむべし時々歩行して気おめぐらし、食お消すべし、ひるねすべからず、入湯の日数おはりても、風雨はげしくば帰べからず、天気しづかになりてかへるべし、湯治の内灸おいむ、あがりて後も数日の間灸すべからず、