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七湯栞

入方用捨の次第 筥根七湯は、悉く効験ことにして、疾病によりて其しるし各異なりといへども、大概は老少男女お論ぜず、養生お主とし、潤身補益の温湯なり、腎お補ひ、筋骨肌膚お固し、脾胃おとヽのへ、食おすすめ、津液おまし、五臓おあたヽめ、万病に応変す、其外異病怪病といへども、悉くしるしあり、よく其湯宿(○○)にたづねて病に応ずべきに浴すべし、湯宿又古格あり、博覧の医といへども、温泉の製は別なり、先浴せんとして湯槽にのぞまば、己が手拭もて、湯壺の端お洗ひ温め、其所へ腰おかけ、両足お湯壺の中へ浸しながら湯お手に結び面お洗ひ、いかにも気お平らかにして、夫より両肩脊中腰の辺お、何遍もそヽぎかけ、自然と総身あたヽまるお待て入べし、猶肩の出ぬ程に入るなり、肩出る時は上気す、男女ともにかヾむはあしく、手足おのばし、指の股までも湯気の廻るやうに入るべし、上気お引下るとて、足ばかりお湯にひたすものあり、決して無用なり、却て上気してあしヽ、かくして総身自然とあたヽまり、透りたりとおもふ時、静にあがるべし、もし久しく浴すれば、津液燥て害おなすべし、入湯は一日に三度より六七度迄はくるしからず、度々なれば、湯よりあがりていまだ血おさまらざるうちに又入るゆへ、逆上してあしヽ、此ゆへに、すヽむ時は其ほどお考へて浴し、すヽまざる時は見合せて入るべし、己が気にうけざれば、血もうけず、気血和せざれば、湯の廻り遅し、よく〳〵弁ふべし、