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塩原考
昔は塩原湯泉八け所と雲ひしが、今は其所或は廃し或は湯涸れて、延宝の始地震有りて、又塩原の湯は涸れ失けるよし也、今の所と雲ふは、福綿戸、塩竈、旗下戸、門前、古町、塩の湯、簀巻、新湯、甘湯等也、〈◯中略〉左に湯泉の効能おしるす、 福綿戸 岩の湯〈薄赤く濁り、色塩気あり、〉大熱湯 主治 疝気 寸白 脚気 諸虫 積聚 橋本湯〈色清く少し塩気有甚あつし、〉中熱湯 主治 腹痛 手足痹 冷の湯〈色清し〉 大冷湯 主治 頭痛 痰 眼疾 塩竈殻風呂 大熱湯 主治 中焦下焦渇 手足痛 諸痔 坂下湯〈少し濁り有〉 大熱湯 主治 痛風 手足痿たるによし 旗下戸 中の湯〈色清く、塩気あり、〉 熱湯 主治 脚気 腰痛 脇痛 血の道 河原の湯〈少し濁り、酢く甘し貉(むぢな)湯とも雲、〉 大熱湯 主治 疝気 脚気 下焦の冷 金瘡 次の湯〈少し濁り有〉 中熱湯 主治 逆上お引下げ 湿気お払ふ 門前の湯〈色清し〉 大冷湯 主治 頭痛 眼病 諸瘡 古町 御所湯〈色清し、塩気有、〉 中熱湯〈平穏〉 主治 疝気 頭痛 気積 腰痛 角の湯〈色清し〉 中熱湯 主治 打身 金瘡 痰 〈何れの病後にても、是に浴してよしといふ、〉 中の湯〈薄濁り〉 大熱湯〈岩の湯に類す、名湯也、〉 主治 疝気 寸白 脚気 筋骨痛 中風 滝の湯〈色清し〉 冷湯 主治 頭痛 眼病 淋疾 湿気 不動湯〈少し濁有〉 熱湯 主治 鬱気お開く 頭痛 眼病 中風 梅の湯〈色清く、塩気有、〉 中熱湯 主治 痰火 腰痛 脚気 婦人血の道病後 簀巻 滝の湯〈色清し〉 冷湯 主治 頭痛 眼病 湿気お払ふ 塩の湯 岩の湯〈少し濁り有、塩気つよし、天狗湯とも雲、〉大熱湯 主治 疝気 眼病 虫 血授 中の湯〈色清し、塩気つよし、〉 中熱湯 主治 頭痛 諸瘡 手足痛次の湯〈色清し、塩気強し、〉 中熱湯 主治 脚気 心痛甚敷によし 新湯 上の湯〈弐け所 鼠色、酢く澀味有、硫黄の気甚し、〉大冷湯 主治 眼疾 諸瘡によし 滝の湯〈薄濁り酢し〉 にが湯〈薄黄色、苦酢し、〉 下の湯〈赤白し、澀み、甘み、塩気有、〉 右いづれも冷湯にして、主治、上の湯に類すべし、 甘湯〈湯に甘み有とて甘湯と雲、和らかにして温也、〉 主治、機織の湯に類すと雲へり、 右当地温泉の効能、〈予〉が聞所大略斯の如し、窃に考ふるに、其地により、硫黄、雄黄、辰砂、礬石等の物ありて、其気になれそヽぐが故に、其所によりて温泉に緩急ありて、効能またかはるといへ共、其山谷の気は同じく、其温泉の水源は一なるべし、凡温泉の功は、陽気お宣通し、血気お廻らし、肌体おあたヽめ、関節お利し、淤血お破り、滞りお散じ、寒お除き、湿お去り、積聚、疝気、むねはら、わきなどの冷痛の類、腰脚のしびれだるく痛む類、手足筋骨のひきつり、のびかヾみなり難き類、脚気、うちみ、くぢき、一切の傷損、下疳、便毒、諸痔、脱肛、淋疾、楊梅、瘡毒、疥癬、雁瘡、紫白、癜風、金瘡愈んとして愈ざる類、婦人の血積、淤血、経行不順の症、帯下、腰冷、下部一切の病、これらの諸病いづれも温泉によろし、又温泉によろしからざるもの病は、気血虚損、労巻不足の諸症、もろ〳〵の諸失血後、津液乾燥たる病人、脾胃虚労咳の類は浴すべからず、