[p.1173]
北国紀行
二月の初、鳥越のおきな艤して、角田川に泛びぬ、東岸は下総、西岸は武蔵野につヾけり、利根入間の二河落合る所に、彼古き渡りあり、東の渚に幽村あり、西の渚に孤村有、水面悠々として両岸に等しく、晩霞曲江に流れ、帰帆野草おはしるかとおぼゆ筑波蒼穹の東にあたり、富士碧落の西に有て、絶頂はたへにきえ、裙野に夕日お帯、朧月空にかヽり、扁雲行尽して、四域に山なし、 浪の上のむかしおとへばすみだ川霞やしろき鳥の涙に